60年前に思いを寄せて

 小学校低学年の頃、善海様の弟様と私は同級生だったので毎日のように妹や友達と西泉寺へ遊びに行きました。
潮来街道を渡って田んぼ沿いの道に入り、赤い前掛けをしたお地蔵様に「なんまい」と手を合わせます。しばらくすると大きな茶色い牛が繋がれていて、その前をどきどきしながら猛ダッシュで通り抜けます。
そこから先の急な坂道を息を切らして上ると西泉寺はもうすぐです。
道端の季節の草花を見ながら、春にはスミレやぜんまい、わらびを摘みながら行くのが楽しみでした。

 西泉寺の入口には枝が地面に着くほど大きく曲がった立派なサルスベリがあり、夏には鮮やかな花が見事でした。よく登って遊んでいましたが、ある日、物知りのかずちゃん(弟様の呼び名)が「その木は表面がスベスベで猿でも滑っちゃうからサルスベリ、って言うんだよ。」と教えてくれました。「えーっ!そんな恐ろしい木だったんだ!知らなっかった~!」とびっくりしてそれ以来登るのはやめました。今でもサルスベリを見ると思わずクスッとしてしまいます。

 遊ぶ場所はもっぱら境内やお墓でしたが、西泉寺には当時では珍しいレコードプレーヤーがあり、それでソノシートの「オバケのQ太郎」の主題歌を聞くのもとても楽しみでした。

 前住職様がご在宅の時には「よく来たね~」と穏やかな笑顔で必ず頭を撫でてくださいました。それがもう嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。
 奥様は先生もされていてお忙しいはずなのに、いつも台所に立っていらっしゃる姿が思い出されます。「よっちゃん。かずちゃん。」と子供達に優しく呼びかける言い方が大好きで、自分の母親にもこんな風に優しくして欲しいな~、と羨ましかったです。

 それから、こんなエビソードもありました。
私が確か小学校一年生の時の事です。当時、桑山地区はバス通学でしたが、ある日バスがストライキ?で急に運休となり上級生と一緒に家まで歩く事になりました。私は体が小さく体力もなくその上にわがままだったので、途中で「もう歩けない!歩くのいやだ~」と駄々をこね始めて周りの子供達も困ってしまいました。すると、「じゃ、僕がおんぶしてあげる。」と、スッと背中を差し出してくれた2歳上の上級生の男の子が!「やった~楽ちん、楽ちん!」としばらくはおんぶしてもらいましたが、少しも嫌な顔を見せない上級生に「さすがにこれはマズイ!」と段々とバツが悪くなり「もういい!降りる!歩く!」と背中からストンと降りました。

 善海様!あの時は本当にありがとうございました。わがままし放題の上にお礼も言わず、大変申し訳ありませんでした~。
家に帰って母に話すと叱られましたが、幼い善海様の勇気ある優しい行動に、我が家では今でも「ヒーロー伝説」として語り継がれています。

 あれからあっという間に60年近くの歳月が流れました。西泉寺での思い出は心が温かくなることばかりです。
これからも会いに溢れた西泉寺でありますように、とお祈りいたします。

蛯原洋子

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